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微量栄養素の摂取はアルツハイマー病の進行を変えるか?

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23 10月 2017

アルツハイマー病は、年齢に関連した消耗性の進行性疾患で、老人性認知症の原因として最多のものです。アルツハイマー病は、「21世紀の医療や社会に対する単独では最大の危機」と呼ばれています (1)。2015年の世界アルツハイマーレポート (2) によれば、認知症症例は世界で4680万例、費用は8180億米ドルにのぼっています。2030年には世界で症例数7470万例、費用は2兆米ドルに達すると推測されています。2050年までに、症例数は2015年の数から68%も上昇すると推定されています。この上昇のかなりの部分は、歳入規模が小~中程度の国々が占めるでしょう。

3型糖尿病

アルツハイマー病は3型糖尿病と呼ばれることがあります。実際に、進行したアルツハイマー病患者の脳のインスリン値が非常に低いことは確かです。2型糖尿病は脳にインスリン耐性や酸化ストレス、認知機能障害を引き起こしますが、アルツハイマー症状の全容の説明にはなりません – よって3型糖尿病の名があるのです(3)。年齢や遺伝はこの疾患の重要なリスク要因ですが、食事や現代のライフスタイル、メタボリックシンドロームも非常に大きく関わっている可能性があるでしょう。

アルツハイマー病の病理では、神経毒性のβアミロイドプラークが形成されることが大きな特徴です。アミロイドβ単量体は、2つの酵素(β-セクレターゼとγ-セクレターゼ)が、ニューロンのアミロイド前駆体タンパク(APP)を切断した際に生成します。その結果生じたアミロイドβは、脳組織に放出されます。具体的には、アミロイドβ42(AB42)(アミロイドβの一アミノ酸フォーム)が神経毒性作用の原因と考えられています。健康な脳では、アミロイドタンパクが脳の損傷を修復するようはたらきます。けれどもアルツハイマー病では、βアミロイド単量体の折り畳みにミスが生じて、神経毒性のβアミロイドオリゴマーが生じます。この機序が、薬剤介入研究の主要な対象です。残念ながら現在市販許可を受けている薬剤には、神経伝達物質アセチルコリンの濃度を高めるだけで、βアミロイドに対する作用はありません。別の治療法では、NMDA受容体遮断薬(メマンチン等)を使います。この遮断薬は、シナプス後ニューロンのグルタミン酸受容体の活性を高めることによって、中等度から重度のアルツハイマー病患者の長期記憶を一時的に改善することができます。

Tramiprosate(3-アミノプロパンスルホン酸)

tramiprosate(3-アミノプロパンスルホン酸)という小分子が、アミロイド単量体タンパクの折り畳みミスを防ぐことができるという興味深い新発見がありました。tramiprosateの通常の作用機序は、本来のアミロイド構造の周囲に防御的なエンベロープを形成することで変形されることを防ぐというものです (4)。2016年には、aducanumabというモノクローナル抗体を使った第I相臨床試験において、神経毒性βアミロイドオリゴマー値が著しく低減して認知機能が改善されることが示されました。本剤は合計2,700人の患者が関与する2件の第III相試験で使われるところです。試験の完了予定は2020年です(5)。  別のモノクローナル抗体solanezumabは認知機能の改善を示しましたが、最近第III相試験が失敗に終わりました。ただしaducanumabの場合と違い、solanezumabでの標的は、アミロイドオリゴマーと凝集塊を除く単量体のアミロイドβアミロイドのみでした。

アミロイドオリゴマーの毒性の凝集塊は、20歳という若さの人の脳にも認められています (6)。

アルツハイマー病治療のもう一つの標的分子は、ニューロン内の微小管という構造と結合するリン酸化タウというタンパク質です。その結果生じる神経原線維変化がシナプスを障害して最終的にはニューロンの死に至ります。免疫系を刺激して特にタウタンパク質を標的とした抗体を産生するようにしたワクチン(ACI-35)が開発されています (5)。

地中海式ダイエット

食事法のなかには、アルツハイマー病の発症を遅らせられる可能性のあるものがあります。観察研究(フランスの3C等)では、地中海式ダイエットを厳正に守ることにより、認知機能が補助されることが示されています。また、オメガ3脂肪酸であるDHAと(ALAではなく)EPAが、認知機能を補助しうることが示されています (7)。aPoE4遺伝子対があるかないかにかかわらず、個人の遺伝的表現型が、このような食事法が効果を発揮するかどうかの重要な決定因です。

軽度認知機能障害(MCI)

軽度認知機能障害は、血中のホモシステイン濃度上昇に伴って発症します。ホモシステインは、細胞内でメチオニンから生じます。血中ホモシステインの高値が認知症発症のリスク要因であることは広範に認めれられています。葉酸、ビタミンB6、またビタミンB12があれば、ホモシステインの細胞産生率を抑制できます(8)。プロスペクティブ研究では、ホモシステイン値の上昇が高齢者の脳の構造的損傷と関連することが示されていますが、特に白質の微小構造が障害されて、神経原線維の変化や脳の全体的な萎縮率上昇に関連することが示されています。2014年に実施されたメタ分析からは、ホモシステイン値が高い健常高齢者では、アルツハイマー病の発症リスクがそうでない人に比べて22パーセント高いことが示されました (9)。脳の萎縮度合いは、高齢者のホモシステイン値と相互に関連するようですが、磁気共鳴画像法を使った最近の研究から、ビタミンB群が脳の特定の主要構造を補助しうる可能性が示されています (10)。

DHAオメガ3

海洋性オメガ3脂肪酸のDHAは、神経細胞の重要な構成成分です。脳のDHA濃度は、食事からの取り込みに依存します。  集団調査12件(参加者154,711人)を対象とした最近のメタ分析からは、0.1g/日のDHA摂取で、認知症(RR=0.86)とアルツハイマー病(RR=0.63)の発症が有意に抑制されることが示されましたが、用量-反応間に関係性は認められませんでした (11)。DHAはオキシピリンNeuroprotectin D1(NPD1)に代謝されますが、このNPD1は脳細胞のβアミロイドβ42オリゴマーへの暴露を防ぐことが示されています (12)。

DHAは、アルツハイマー病の遺伝子を導入したマウス(Tg2576)において、βアミロイドオリゴマーの凝集塊と神経原線維タウタンパク質両方の量を低減させることが示されています(13)。体外では、溶液内のアミロイドβ42単量体を安定化させて、不溶性の凝集塊やプラークへの変換を妨げることが示されています (14)。

アルツハイマー病は通常MCIが先行します。2010年に、アメリカのアルツハイマー病患者400人に18ヵ月間DHA 2 gの介入を行った大規模多施設研究の報告が公表されました(15)。研究集団全体ではベネフィットは認められませんでしたが、サブセット解析では、ApoE4遺伝子のない参加者において、精神機能低下の速度が遅いことが示されました(ApoE4遺伝子がないのはアルツハイマー病患者では40%、一般人口では80%)。

Jernerenら(16)は、VITACOGコホートにおいて、循環血中のEPAとDHAの濃度の影響を、レトロスペクティブに調査しました(17)。このVITACOGコホートは、70歳以上でビタミンB類の介入を受けている133人で構成されました。海洋性オメガ3脂肪酸の至適利用と分布には、ビタミンB群が十分な量あること、またホモシステイン値が低いことが必要であることが示されました(1)。Jernerenら(18)によって、脳萎縮におけるビタミンB群の効用は患者のオメガ3の状態と強く依存することが示されました。海洋性オメガ3の血漿濃度が最高(˃590 µmol/L)3分位の被験者間では、脳の萎縮率がプラセボ群よりも40%低いことが示されました。ベースラインの海洋性オメガ3濃度が最低(˂390 µmol/L)3分位の被験者間では、ビタミンB群の栄養補助剤による脳の萎縮率低下は達成されませんでした。アルツハイマー病の患者は、DHAのホスファチジルコリン(PC)フォームが欠損するようになります(19)。興味深いことに、通常このPC-DHAフォームは、ビタミンB群が必要な、ホスファチジルエタノールアミンの一連のメチル化によって産生します。

抗酸化ビタミンも認知機能を補助する可能性があります。脳は他のどの器官よりもビタミンC含有量が高い器官です。ビタミンCは神経伝達物質ドーパミンとノルアドレナリンの合成に不可欠です。アスコルビン酸も酸化ストレスからニューロンを防御する抗酸化剤としてはたらく可能性があります。アスコルビン酸は、特にビタミンEをその抗酸化フォームに再生するのにも必要なためです。ビタミンEは正常な神経機能のために重要です。ビタミンEが欠乏すると、まず脊髄小脳失調や構音障害などの神経機能障害に至ります。強力な抗酸化剤でありフリーラジカルの捕捉剤でニューロン膜の成分であるビタミンEは、脂質と脂肪酸の酸化を防ぎます (20)。

このレビューは、高齢者集団の脳の健康を支援する取り組みにおいて、微量栄養素による補助療法が有益と証明される可能性があることを示しています。

開催間近:アルツハイマー病との関連で長鎖多価不飽和脂肪酸(LC-PUFA)の影響を検討するカンファレンスが2017年10月8~11日にフランス・ナンシーで開催されます https://lipidsandbrain.event.univ-lorraine.fr

リファレンス

  1. Daisy Custer, chair of Alzheimer’s Disease International, September 2010.
  2. Alzheimer’s Disease International; “World Alzheimer Report 2015 – The global impact of dementia”.
  3. De la Monte SM & Wands JR; “Alzheimer’s Disease is Type 3 Diabetes-Evidence Reviewed”; J Diabetes Sci Technol 2008: 2(6): 1101-1113.
  4. O’Driscoll C; “Alzheimer’s unfolded”; Chemistry and Industry 2017; 4:9.
  5. Fox-Skelly J; “Good news and bad for Alzheimer’s”; Chemistry and Industry 2017; 1:26-29.
  6. Baker-Nigh A,  Vahedi S, Goetz Davis E et al.; “Neuronal amyloid-β accumulation within cholinergic basal forebrain in ageing and Alzheimer’s disease”; Brain 2015 Jun; 138(6): 1722–1737.
  7. Barberger-Gateau et al; “Mediterranean diet and cognitive decline: what role for omega-3 polyunsaturated fatty acids?”; OCL, 2011 18:4:224-7.
  8. Clarke RSmith ADJobst KA et al; “Folate, vitamin B12, and serum total homocysteine levels in confirmed Alzheimer disease”; Arch Neurol. 1998 Nov;55(11):1449-55.
  9. Beydoun MA, Beydoun HA, Gamaldo AA et al.; “Epidemiologic studies of modifiable factors associated with cognition and dementia: systematic review and meta-analysis”; 2014 BMC Public Health 2014; 14:643.
  10. Douaud G, Refsum H, De Jager C et al.; “preventing Alzheimer’s disease-related gray matter atrophy by B-vitamin treatment”; PNAS 2013, 110:23 .
  11. Zhang Y, Chen J, Qiu J et al.; “Intakes of fish and polyunsaturated fatty acids and mild-to-severe cognitive impairment risks: a dose-response meta-analysis of 21 cohort studies”; Am J Clin Nutr 2016, 103:330-40.
  12. Bazan N & Asatryan A; “Docosahexaenoic acid (DHA) in stroke, Alzheimer’s disease and blinding retinal degenerations: coping with neuroinflammation and sustaining cell survival”: OCL 2011; 18(4): 208-13.
  13. Lim GP, Calon F, Morihara T; “A diet enriched with the omega-3 fatty acids docosahexaenoic acid reduces amyloid burden in an aged Alzheimer mouse model”; J Neurosci 2005;  25: 3032-3040.
  14. Johansson A-S, Garind A, Berglind-Dehlin F et al.; “Docosahexaenoic acid stabilizes amyloid-β protofibrils and sustains amyloid- β-induced neurotoxicity in vitro”; the FEBS Journal 2007: 990-1000.
  15. Quinn J, Reman R, Thomas RG et al; “Docosahexaenoic Acid Supplementation and Cognitive Decline in Alzheimer Disease: A Randomized Trial”: JAMA 2010; 304 (17):1903-1911.
  16. Jeneren F., Elshorbagy AK, Ouljah A et al, “Brain atrophy in cognitively impaired elderly : the importance of long-chain omega -3 fatty acids and B vitamin status in a randomized controlled trial”, Am J Clin Nutr 2015; 102:215-21
  17. Smith AD, Smith SM, De Jager CA et al.,”Homocysteine-lowering by B vitamins slows the rate of accelerated brain atrophy in mild cognitive impairment: a randomized controlled trial”; PLoS ONE 2010; 5:e12244.
  18. Blasko B, “Interaction of omega-3 fatty acids with B vitamins in slowing the progression of brain atrophy: identifying the elderly at risk”, Am J Clin Nutr 2015; 102:7-8.
  19. Yuki DSugiura YZaima N et al.; “DHA-PC and PSD-95 decrease after loss of synaptophysin and before neuronal loss in patients with Alzheimer's disease”; Sci Rep. 2014 Nov 20;4:7130. doi: 10.1038/srep07130.
  20. Mohajeri MH, Troesch B and Weber P; “Inadequate supply of Vitamins and DHA in the elderly: implications for brain aging and Alzheimer’s type dementia”; Nutrition 2015; 31(2): 261-275.

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