今月のトピック
アルツハイマー病と栄養に関する知識
15 6月 2018
27 11月 2017
ニュースで取り上げられた栄養学
過去数年における主要なトレンドの1つは、スーパーベジタブルのケールです。抗酸化成分と鉄分、眼に優しいカロチノイドが豊富な野菜です。このアブラナ科の野菜は、栄養的な面で比較的未知の部分がありますが、スムージーやピザに加えたり、炒めて食事の付け合せにして食べるのが最適です。。健康的な緑黄野菜として上位のケールですが、そのランクに変動が生じているようです。米国の疾病管理予防センターによると、葉系のさまざまな緑黄野菜の栄養成分を比較したところ、ケールがトップ5にも入らないことが判明しました。実際、2017年のスーパーフードは、これまでよりも日常的なもので、マメ類、りんご、キャベツ、ブルーベリーなど、おばあちゃん世代が健康的と考えるような食材が上位にランクインしていました。
加工食品などを避け、体に良い食材を取る食事スタイルクリーンイーティングの流行もかげりを見せており、代わって、ベジタリアン向け、ビーガン向けの商品に興味を持つ人が増えています。2017年のマーケティングデータでは、植物ベースの食品分野で年間8%の増加が見られます。また関連ニュースとしては、大手ファストフードのレストランチェーンがビーガンバーガーを開発していることや、乳製品好きにも乳糖不耐症の人にも喜ばれる乳製品不使用のアイスクリームが再び脚光を浴びていることなどが取り上げられています。
マイクロバイオームやプロバイオティクスに関する注目情報としては、Hsiao氏と同僚たちによる臨床試験の内容がニュースサイトで配信されました。プロバイオティクスとピーナッツを併用した療法でピーナッツアレルギーが解消されたというものです[1]。これは、NUTRI-FACTSが最近の月間トピックで取り上げた、食生活、栄養、腸内微生物に 関する話題と関連しています。
その他の注目記事としては、栄養と食生活が寿命に与える影響があります。健康な食生活を送る目的は病気にならないためであり、食事と長寿には明白な関連性があります。その一例として、食事を少し健康的にするだけで平均寿命を改善できることが研究で判明し、大きくニュースで取り上げられました。食事で果物や野菜をたんくさん取るのは良いことですが、適切な摂取量については少し情報が錯綜しているようです。今年初旬にいくつかのユースサイトで、慢性疾患予防には5食分より10食分を摂取するほうが効果的だと掲載されました。一方、別の調査では、4食分で十分であり、それ以上摂取しても死亡率の低下につながらないという見解が示されています。
味に多少難点のあるカカオですが、脳卒中や心不全の原因となる不整脈のリスク低減と、カカオの摂取量の間には関連性があり、研究者らによると、カカオに含まれるポリフェノール成分に起因していると考えられています。赤唐辛子もまた、平均寿命を引き延ばす効果があると考えらえています。赤唐辛子を摂取する人は死亡リスクが低下したという研究が報告さています。
最新の優れた栄養研究
毎年、栄養学分野で2万〜3万件の研究論文が発表されますが*、主要なニュースサイトに取り上げられるのは極わずかです。しかし、これら論文の多くは栄養学研究者にとっては重要であり、栄養学の分野に大きな影響を与える可能性があります。注目すべき論文は何千人もの科学者によって引用され、引用頻度の高い栄養学論文として過去5年分のリストがまとめられ、維持されています。論文が引用されると論文作成者にその旨が通知されます。すでに引用回数が非常に高くなっていることから、科学者らの間では今年も実り多い年になるだろうと評されています。
引用回数の高い主要な栄養研究の論文およびレビュー
肥満と健康リスクの関係については非常に多くの研究がなされており、そこに栄養学が密接に関わっています。肥満とそれに伴う健康への影響について、総合的に引用できる論文を世界中から探していた研究者たちは、Afshin氏と彼の同僚による論文が{Afshin, 2017 #265}有益であることを発見しました[2]。また、DNA活性化の変化と肥満との関連性について述べた、Wahl氏と共同研究者による論文は、2型糖尿病の発症をより詳しく特定し、その治療法を見つけるのに役立つ可能性があります[3]。さらに、哺乳動物の代謝と生理機構の中枢に作用する調節因子mTOR酵素の機能についてまとめたSaxton氏とSabatini氏の論評は、頻繁に引用されてます。肥満や2型糖尿病では、mTOR酵素が本来の機能を果たせないことが述べられています[4]。
肥満とそれに伴う健康への影響に注目したDel Chierico氏と同僚は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者の腸内微生物と腸内細菌代謝物に違いがあることを明らかにしています[5]{Afshin, 2017 #265}。この分野に関する最近の研究としては、Plovier氏らが行ったものがあります。代謝疾患の低さと関連性のある正常な腸内細菌叢Akkermansia muciniphilaを、活きた状態で、または低温殺菌してマウスに投与した場合、マウスの肥満、インスリン抵抗症、脂質異常症(高脂血症)を軽減させることができたというものです[6]。
Mattison氏が率いる研究者グループは、アカゲザルの寿命がカロリー制限から受ける影響について調べた2つの研究で、結果がそれぞれ異なることに注目しました[7]。米国ウィスコンシン大学で実施された研究では、カロリー制限によりサルの寿命が改善されたと報告され、アメリカ国立老化研究所(NIA)で実施された研究では効果がないとことが判明しています。Mattison氏らによる論文では、研究中に調査対象となるサルがどのように選択され、どのように食事を与えられていたか、その違いがこれら2つの研究結果に影響を及ぼしたと論じています。
今年非常に多く引用された論文で、黄色のスパイスであるターメリック(ウコン)の成分、クルクミンがもたらす健康上のメリットについて論じた興味深いものもあります。この論文はNelsonと同僚により執筆され、彼らは、クルクミンは生物学的な利用効能が非常に低く、ラボ検査で偽陽性の結果が出ているため、結論として健康上のメリットを得られるとは考えにくいと主張しています[8]。このレビュー論文は、特に抗老化分野の領域でクルクミンの生物学的な効果を示唆する他のレビューと照らし合わせて議論する余地があります[9]。
栄養学分野は、特に情報学、向上した分析技術/遺伝学に関連する分野の進歩を取り入れながら急速に進化しています。私たちの健康と幸せに栄養がどのように関連するか、複数の異なる分野が連携することでその理解がますます深まっています。来月は、2018年以降の展望についてご紹介します。
* 生物医学・生命科学データベースPubmedで栄養学(nutrition)に関する過去10年間の記事を検索した結果に基づいています。