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必須脂肪酸

疾病リスクの軽減

循環器疾患

長鎖オメガ-3脂肪酸:エイコサペンタエン酸および、ドコサヘキサエン酸 (EPA DHA)

長鎖オメガ-3脂肪酸(EPAおよび、DHA)の摂取を増やすことで以下に列記するように循環器疾患のリスクを低減できる証拠が蓄積しています、即ち

  • 突然心臓死に繋がる異常な心臓の鼓動(「不整脈」)の防止
  • 心筋梗塞あるいは、脳梗塞に繋がる血栓形成(「血栓症」)のリスクの低減
  • 血清トリグリセリド濃度の減少
  • アテローム斑の増殖の減速
  • 血管内皮機能の改善
  • 血圧の低減
  • 炎症の緩和(63)

ランダム化比較試験のレビューでは、魚あるいは、魚油サプリメントによるEPAおよび、DHA(但し、ALAではない)が全死因死亡、心臓死および、突然死の発生の低減と関連することを明らかにしました  (64) 。別のレビューとランダム化比較試験のメタ分析および、プロスペクティブ・コホート研究では、長鎖オメガ-3脂肪酸は全死亡率あるいは、心血管系イベントのリスクを特筆するほど減らすことはないと結論付けました(65)。 しかし、この研究は分析に含まれていた少数の臨床研究によって制限されました。 

冠動脈性心疾患

幾つかのプロスペクティブ・コホート研究では、少なくとも一週間に一回魚を食べる男性は、魚を食べない男性に比較して冠動脈性心疾患(CHD)による死亡率が低いことが証明されました  (66, 67, 68) 。

1,822人の男性を30年間に亘って追跡調査した1件の上記の研究では、魚を食べなかった男性に比べて少なくとも1日に平均35グラムの魚を摂取した男性においてはCHDによる死亡率が38%低く、魚を食べたグループにおいては心筋梗塞による死亡率では67%低かったことが判明しました(69)

10年間に亘って18,000人を超える対象者を追跡した中国での研究では一週間に魚あるいは、貝類を200グラム以上摂取した人々は、一週間に50グラム未満を摂取した人々に比べて心筋梗塞で死亡するリスクが59%低かったことが立証されました(70)

オメガ-3脂肪酸の高用量摂取および、魚摂取の効果に関しての女性を対象とした情報で入手できるものはより少なくなっています:16年間にわたって84,000 人以上を追跡調査した看護師の健康研究では、1ヵ月に1回未満魚を食べた女性に比べて少なくとも1週間に1回魚を食べた女性のCHDによる死亡率が29~34%低かったことが確認されました  (71) 。2,445人のフィンランド人女性を対象としたプロスペクティブ研究では、魚の摂取量が最も多かった(1日当たり41グラム以上または、等しい;1日当たり平均70ミリグラム)人々は、摂取量が最も少なかった(1日当たり8グラム未満または、等しい;1日当たり平均4.2グラム)人々に比べてCHDのリスクが41%低かったことが明らかになりました(72)

41,478人の日本人男性と女性のグループを対象とした大規模プロスペクティブ研究では、魚の摂取量の多さがCHDのリスクの更なる低減に繋がることが判明しました。この研究において、魚を毎週8回摂取した人々は、1週間に1回のみ魚を摂取した人々に比較して冠動脈イベントのリスクを57%低減しまた、心筋梗塞のリスク56%低減しました  (73) 。8,879人の日本人男性と女性を対象としたより小規模のプロスペクティブ研究では、1日に2回の魚の摂取が1週間に魚を1~2回摂取したケースに比較して全死因死亡率あるいは、CHDによる死亡率を低減しなかったことが明らかになりました  (74) 。しかし、1日当たり250ミリグラムのDHA プラスEPAを魚から摂取することで結果的に心血管疾患による死亡リスクを36%減らすことができます (44)

突然心臓死

突然心臓死(SCD)は、通常冠動脈性心疾患の患者に発生する心腔下部の致命的な異常心臓鼓動(「心室性不整脈」)の結果です。疫学研究の結果では、通常の魚の摂取が突然心臓死のリスク減少と繋がることを示唆します  (75) 。11年間に亘って20,000人を超える男性を対象とした大規模プロスペクティブ・コホート研究では、1週間に少なくとも1回魚を食べた人々は1ヶ月に1回未満魚を食べた人々に比較して突然心臓死のリスクが52%低かったことが判りました  (76, 77) 。

14年間に亘って45,000人以上の対象者を追跡調査したプロスペクティブ研究では、1日当たり250ミリグラム未満を摂取した人々に比べて少なくとも1日当たり平均250ミリグラムの食物EPA+DHA(1週間に一回1~2尾の脂肪の多い魚に相当する)を摂取した人々において突然心臓死のリスクが40~50%低かったことが判明しました  (52) 。食物EPA+DHA摂取は、非致死性MIあるいは、トータルCHDイベントのリスクとは関連性がなく、長鎖オメガ-3脂肪酸の抗不整脈効果が通常の食物摂取レベルで重要であることを示唆しています。

オメガ-3サプリメント投与心室性不整脈のリスクを減らすか否かは明確ではありません:3件の臨床試験のメタ分析(78, 79,80) では、魚油サプリメントが既存の心臓障害を伴う患者における心室性不整脈の防止に役立っていなかったと結論付けました(81)。オメガ-3脂肪酸ステータスが心室性不整脈のリスクに影響するか否かを決定するためにより多くの研究が必要とされます  (82)

脳梗塞

脳梗塞は脳に血液を供給する動脈が凝血塊で閉塞を起こす(「虚血性脳梗塞」)脳領域への血流不足の結果です。「脳出血」は、脳血管が破裂し脳内に出血するときに発症します。魚あるいは、オメガ-3脂肪酸摂取と全体的な脳梗塞発症間の関係を調査した幾つかのプロスペクティブ研究では、魚摂取の増量は有益であるとし(83, 84) 、一方他は有益な効果はないとしています(85, 86, 87)。最近になって、2件の大規模プロスペクティブ研究で、魚(1週間に少なくとも2回)および、オメガ-3脂肪酸摂取の増量が虚血性脳梗塞のリスクを著しく低下させる (43%–52%)が、脳出血には効果がないことが確認されました (88, 89) 。

長鎖オメガ-3脂肪酸摂取の脳梗塞への効果は、冠動脈性心疾患(CHD)ほどには徹底して研究されてはいませんが、公表されている証拠のメタ・アナリシスでは、魚摂取の増量で脳出血を除く虚血性脳梗塞のリスクを減らせる可能性を示唆しています(90)。複数のコホート研究で、魚と魚油の摂取が虚血性脳梗塞の発症リスクを30% 減らすと想定されています(44) 。最近になっての研究の結果では高用量 EPAサプリメント投与は脳梗塞の病歴を持つ患者における脳梗塞の再発防止(「脳梗塞の第二次予防」)において効果があることを示しています(91) 。 継続中の研究には、虚血性脳梗塞を含む致死性および、非致死性心血管疾患発症に対する葉酸、Bビタミン群および、オメガ-3脂肪酸併用サプリメント投与を評価する二次予防試験が含まれています (271)

血清トリグリセリド

17件の プロスペクティブ研究のメタ・アナリシス では、血清トリグリセリド の高濃度 (1デシリットル当たり200 ミリグラム以上)が心血管疾患を引き起こす独立危険因子であることが判明しました(92)。ヒトにおける多数のランダム化比較試験では、EPA およびDHA の摂取量の増量により著しく血清トリグリセリド濃度を低下させることを証明しました(93)。臨床的に効果のある血清トリグリセリド濃度の縮小は、1日当たり2グラムのEPA + DHAの投与で実証できます(2) 。 DHA 単独でもEPA+DHAと同様に血清トリグリセリド濃度を減らします(272)

要約:オメガ-3とオメガ-6PUFAおよび、循環器疾患予防

疫学研究 とランダム化比較試験 の結果は、食物飽和脂肪酸(SFA)をオメガ-6および、オメガ-3多価不飽和脂肪酸 (PUFA)特にDHA と EPA に置き換えることで心血管疾患と脳梗塞の発症リスクを減らせることを示唆します。オメガ-6とオメガ-3濃度を高める一方、SFAを減らすことが心血管状態改善に役立ちます。オメガ-6および、オメガ-3の摂取増量の血清LDL濃度低減効果もまた、心血管予後の改善に貢献します。

更に、食物オメガ-3脂肪酸摂取を増やすことがLDLコレステロール低減以外のメカニズムを通じて循環器疾患リスクの著しい軽減に繋がる強力な証拠があります。特に、魚介類からのエイコサペンタエン酸(EPA)および、ドコサヘキサエン酸(DHA)摂取を増やすことで、長鎖オメガ-3脂肪酸に1週間に脂肪を多く含む魚2匹の摂取量と同等量の摂取と同様の抗不整脈効果があることを示唆して突然心臓死の著しい軽減に繋がることを示しました。この量の魚は、1日当たり400~500ミリグラムのEPA+DHAを供給します(94)。 食物がDHAと EPAを獲得するための方法として摂取される場合、EPA+DHAの全体での摂取が1日当たり250ミリグラムから1日当たり400-500ミリグラムまでが基礎的な予防法として適切な所要量と考えられます。

オメガ-3脂肪酸:アルファ-リノール酸 (ALA)

幾つかのプロスペクティブ・コホート研究では、食物アルファ-リノール酸(ALA)摂取と冠動脈性心疾患(CHD)リスク間の関係を調査しました:この調査は米国男性45,000人以上のグループを対象とし14年間に亘って行われ食物ALA摂取における1日当たり各1グラムの増加がCHDの16%のリスク軽減に繋がったことが判りました  (52) 。更に、殆どあるいは、全く海産物を食べなかった人々において食物ALA摂取の1日当たり各1グラムの増加がCHDの47%のリスク軽減に繋がったことが判明しました。

10年間にわたって追跡調査された76,000人を超える米国女性のグループでは、最も高用量のALAを摂取(1日当たり約1.4グラム)した人々が最も低用量(1日当たり約0.7グラム)を摂取した女性に比較して致死性CHDのリスクが45%低かったことが判明しました(53) 。特に、週に5~6回オイルとビネガーのサラダドレッシングからALAを摂取した女性は、希にしか摂取しなかった女性に比較して致死性CHD のリスクが54%低かったことが判りました。

6,000人を超えるより小規模の米国男性のグループでは、最も高い用量のALAを摂取した人々は、最も低用量を摂取した人々に比較してその後10年間のCHDによる死亡率において40%低かったことが判っています(54)

これとは対照的に、ヨーロッパにおける2件の研究では、食物ALA摂取とCHDリスクとの関連性は立証できませんでした(55,56)。さらに、18年にわたって追跡調査を行った76,763人の女性看護師を対象とした健康研究において、ALA の食物摂取が(「致死性」)CHDによるあるいは、非致死性心筋梗塞による死亡にはつながらないものの突然心臓死に関連していました(5,6, 7)。証拠の系統的な検証では、ALA摂取が全死亡率、心臓死および、突然死また、場合によっては脳梗塞の比率を下げなかったことを指摘しています(64)

海産物からの長鎖オメガ-3脂肪酸の高い摂取を支える証拠ほど一貫性はないが、殆どのプロスペクティブ研究では、高用量のALA食物摂取(1日当たり2~3グラム)が特に魚の摂取量の低い地域人口についてCHDリスクの著しい減少と関連することを示唆します(58)

オメガ-6脂肪酸LAと異なり、より高いALA摂取の心臓保護効果は、血清脂質状態における変化と関連していないと考えられます。14件のランダム化比較試験のメタ分析は、ALAサプリメント投与は総コレステロール濃度あるいは、LDLコレステロール濃度に全く影響を及ぼさなかったと結論付けました (59) 。

しかし、幾つかの比較臨床試験では、ALA摂取を増やすことで心筋梗塞や脳梗塞などの心血管系イベントのリスクと強く関連する炎症マーカーである「C反応性タンパク質」(CRP)の血清濃度を低下させることを立証しました(60, 61, 62)。  

オメガ-6脂肪酸:リノール酸 (LA)

オメガ-6脂肪酸リノール酸(LA) は最も豊富な食物多価不飽和脂肪酸(PUFA)です。PUFA摂取と冠動脈性心疾患(CHD)とのリスク関係を調査したプロスペクティブ(前向き)コホート研究の結果には一貫性がありませんでした(37)。複数の研究では、PUFAおよび、LA の高用量摂取はCHD リスク (38, 39, 40) あるいは、 心血管関連の死亡率(41)の著しい減少との関連性があることが証明されました。CHDリスク上の食物脂肪摂取の効果を調査する最大規模のプロスペクティブ・コホート研究は、20年にわたって78,000人以上を追跡調査した看護師の健康調査です。そのグループにおいて、全体のPUFAおよび、LAの最も高い用量(エネルギーの7.4%)を摂取した人々が全体のPUFA および、LAの最も低い用量(エネルギーの5%)を摂取した人々に比較してCHDのリスクが25%低かったことが判明しました (39) 。飽和脂肪酸(SFA)摂取はCHDリスクとは関連していませんでしたが、PUFA :SFA の高率摂取がCHDリスクの低減につながっていることが判明しています。

比較摂取試験では、食物SFAをPUFAで置き換えることで、一貫して血清トータルとLDLコレステロール濃度を低下させることが判っています  (42) 。現に、LAは、食物SFAと置き換えられると血清トータルとLDLコレステロールを低下させる最も強力な脂肪酸になることが明らかにされています(43)

幾つかの食物介入試験では、SFA高含有の食物(エネルギーの18~19%)とSFA低含有の食物(エネルギーの8~9%)および、PUFA高含有食物(14~21%)をCHDによる疾患(「罹患率」)および、死亡率の観点から比較しました(37)。食物PUFAの増加の殆どは、LAによって供給されたが、これらの試験においてALA摂取も増加しました(44)

男性を対象とするその他の食物介入試験では、食物SFAをPUFAで置き換えることでCHDによる罹患率あるいは、死亡率が減少したことが判りました(45, 46, 47, 48)。しかし、女性を対象とした2件の同様な食物介入試験では、CHDによる罹患率あるいは、死亡率の著しい低減には繋がらなかったことが判っています(49, 50) 。

アメリカ心臓協会は、全体のカロリー摂取の5~10%をオメガ-6PUFAから得ることでCHDのリスク減少につながると結論付けました(51)。 推奨摂取量を上回ってのリノール酸摂取量増加で西洋風食事を摂取している成人のアラキドン酸(AA )濃度が増えることはないと考えられます (270)

ガン(癌)

乳ガン

オメガ-3とオメガ-6脂肪酸間のバランスは、乳ガンの発症と増殖に重要な役割を果たすと考えられます。

オメガ-3脂肪酸がおよぼす予防あるいは、治療効果を解明するにはより一層の研究が必要とされますが、何人かの研究者は、ビタミンCビタミンEβ-カロテン、セレニウムおよび、コエンザイムQ10などの他の栄養素との併用によるオメガ-3脂肪酸が乳ガンの予防と治療に特定の価値を発揮する可能性があると推測しています (95) 。

結腸ガン

オメガ-3脂肪酸の十分な食物摂取は結腸直腸ガンのリスクを減らすことができます。脂肪含有量の高い食物を摂取しまた、オメガ-3脂肪酸を豊富に含む魚を大量に摂取するイヌイットなどの特定の種族では結腸直腸ガンの発症率が驚異的に低いことが確認されています。

動物実験では、オメガ-3脂肪酸の摂取で結腸ガンの進行を食い止めることができる一方、高レベルのオメガ-6脂肪酸が実質的にこれらの腫瘍の成長を促進することが判っています(96)

複数の研究では、日々のDHA とEPAの摂取で結腸ガンの進行を遅らせあるいは、食い止めることが可能なことが立証されました(97) 。

1件の動物実験では、びまん型(「転移性」)ガンを発症したラットにおいて、オメガ-3脂肪酸が実際には脾臓に発生したガン細胞の成長を促進したことを示しました (98) 。この理由ははっきりしませんが、さらなる研究調査が必要です。

前立腺ガン

臨床研究のみならず疫学研究では、オメガ-3脂肪酸が前立腺ガンの増殖を抑制する可能性を示唆します(99)

乳ガンにおいてオメガ-3とオメガ-6脂肪酸間のバランスが役割を果たすように、結腸ガン研究においてもアルファ-リノール酸(ALA)が実際に前立腺ガン癌を発症した67人の男性患者に高い濃度で確認されました(100)

しかし、ヒトにおける前立腺ガンのリスクファクターを探索するよう特に設計された最新の研究と系統的検証でこのような関連性を確認できませんでした(101)。 同じ研究者による前立腺ガンについての2件の最新のコホート研究が魚油(DHA+EPA)の摂取と前立腺ガンのリスクについて矛盾する結果を報告しています。最初の研究では、DHA+EPAの高濃度摂取によって高悪性度の腫瘍発症リスクの増加を示唆する一方、第2の研究では、魚油摂取によって前立腺ガンを発症するリスク増加が無いことを示唆しています(273)

加齢性黄斑変性症

49才過ぎの3,000人を超える人々を対象に実施されたアンケートでは、より多くの魚を常食摂取した人々が、魚をあまり摂取しなかった人々より失明にいたる重大な眼の疾患である加齢性黄斑変性症の発症率が低かったことが判明しました (102) 。

同様に、黄斑変性症を発症した350人とガン疾患を一切発症していない500人を比較した臨床研究では、オメガ-3とオメガ-6脂肪酸の健康なバランスを維持しかつ、食物で魚をより多く摂取した人々が特定のガン疾患を発症しにくいことが確認されました (103) 。

別の大規模臨床研究では、1週間に4回もしくは、それ以上魚からEPA とDHAを摂取することにより黄斑変性症の発症リスクが減少することが確認されています。しかし、特にこの同じ研究でALA が実際この眼疾患の発症リスクを増大させる可能性を示唆しています (104) 。

アルツハイマー病および、認知症

高齢者に最も一般的に発症する認知症であるアルツハイマー病は、時間の経過と共に記憶障害と精神錯乱に至ります(105)。 多くの疫学研究 では、魚の高摂取量あるいは、高 DHA摂取または、高血漿中濃度の認知 機能障害 (274)、認知症 (107113275)、 および、アルツハイマー病(107108111112)のリスク低減効果を指摘しています。脳内の主要なオメガ-3脂肪酸ドコサヘキサエン酸(DHA)は、アルツハイマー病患者(276)の幾つかの亜母集団と軽度の認知障害(277)および、加齢性認知低下(278)を発症した患者を保護する働きをするものと考えられます。

フレイミンガム心臓研究(Framingham Heart Study)においては、1週間に魚を平均3回摂取(DHA1日当たり0.18グラム)している血漿DHAの高濃度が確認された男女がそれより低い濃度の人々に比較して、全原因認知症の発症リスクが47%低下しまた、アルツハイマー病発症のリスクが39%低下したことが証明されています(113)。従って、低DHA 濃度状態は、アルツハイマー病、その他の認知症のタイプおよび、加齢性認知障害についてのリスクファクターとなる恐れがあります。

204人の軽度から中度のAD患者の試験では、DHA+EPA (1日当たり2•3 グラム) の処方によって アルツハイマー病評価尺度検査(ADAS-Cog) において認知度低下速度率において遅れが認められませんでした(276)。しかし、非常に緩やかなAD患者のサブグループのミニメンタルステート検査 (MMSE スコア>27)において、6ヵ月および、12ヵ月の期間サプリメント投与後のMMSE低下率において著しい減少が認められました。同様に、1日当たり2グラムのDHAもしくは、18ヵ月間プラセボを投与された402人の軽度から中度のAD患者については、認知度あるいは、機能低下率全体の減少は見られませんでした(279)。しかし、ApoE e4対立遺伝子(ADを引き起こす重要なリスク要因)によるサブグループ・アナリシスでは、DHAをサプリメント投与された ApoE4ネガティブ患者についてADAS-Cog および、MMSE スコアの双方において著しい低下は認められませんでした。これらの所見では、疾病の遺伝子型と重篤度に基づくAD患者の亜母集団がDHAサプリメント投与効果の恩恵を受けられる可能性がありまた、これらのグループ内でのさらなる治験が必要とされます。

また、最近DHA が軽い記憶障害を訴える高齢者を支援する効果的なサプリメントとして脚光を浴びています(278)。加齢性認知能力低下を訴える485人の健康な成人の大規模ランダム化対照臨床試験では、1日当たり900ミリグラムのDHA投与によって6ヵ月間のサプリメント投与後視覚空間学習能力および、記憶能力が著しく改善されたことを立証しました。また、DHAサプリメント投与による言語認識メモリーの改善が明らかになり、血漿中DHA濃度の増加とメモリースコアが相関することが判明しました。さらに、6ヵ月間を超えるDHA 治療は、この高齢者グループの心拍数を著しく減らしたことを示し、心血管系への効果があることが明らかになりました。健康な高齢者を対象に行われた他の研究では、魚油サプリメント投与の認知能力への効果は確認されませんでした(280281)。 研究企画の差異特に、ベースライン認知機能変動性、ベースライン食物オメガ-3摂取、DHA投与および、認知能力評価の取り扱いの難しさの差異がこれらの研究の否定的な結果の一因となっている可能性があります。DHAの認知能力低下あるいは、軽度認知症(MCI)への転換率に対するDHAの長期効果は未だ研究されておらずさらなる臨床研究のターゲットとして残っています。

要約すれば、アルツハイマー病および、認知能力低下についての最近の試験の結果が、DHAなどによる治療法が認知的加齢および、認知能力低下の防止にとって最も効果的であることを示唆しています。 早期介入を可能にする障害の早期発見が最も重要です。臨床データは、AD患者の亜母集団がDHAサプリメント投与の恩恵を受けることが可能であることを示唆します。しかし、これらの所見を確認するためのさらなる研究が必要とされます。