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必須脂肪酸

その他の適用例

以下に留意ください:
微量栄養素の高用量投与による如何なる食事療法あるいは、薬物療法も人体自身の制御機構を抑制してしまう可能性があります。従って、微量栄養素療法は潜在的な副作用と毒性に関連性があるかも知れません。高用量の微量栄養素の投与は医師の指示に従って行われなければなりません。

冠動脈性心疾患

食事介入試験

心筋梗塞(MI) の生存者の中で脂肪分の豊富な魚の週間摂取量を200~400グラム(長鎖オメガ-3脂肪酸EPA おおび、DHAを追加1日当たり500~800ミリグラムを供給する推定量)に増やすよう指導を受けた男性患者について全原因死亡率と致死性(「致死性の」)MI が29% 減少したことが確認されました(114) 。

別の食物介入試験で最初のMIから生還した患者(たち)は、ランダムに通常の治療もしくは、オメガ-3脂肪酸量が多く(特にアルファ-リノール酸、ALA)かつ、標準的な西洋風食事よりもオメガ-6脂肪酸量の低い地中海風食事療法に従うよう指導を受けました。ほとんど4年後に、通常の治療に割当てられたグループの人々に比べて地中海風食事療法を摂った人々の心臓死と非致死性MIのリスクが38%低下しました(115)

高血漿ALA 濃度はより良い結果につながりましたが、単不飽和脂肪酸と果物の摂取も増やしたことから完全に地中海風食事療法の効果がALA摂取に帰結するものであることを立証するには至りませんでした。

平均46ヶ月間地中海風食事療法あるいは、低脂肪食物摂取に従ったMI生存者における1件の介入試験では、全原因死亡率および、心血管関連死亡率はこれらの2グループ間で差異が認められませんでした  (116) 。

サプリメント投与試験

オメガ-3脂肪酸サプリメントの大規模ランダム化比較試験では、3.5年間にわたって1日当たり850ミリグラムのEPA+DHAサプリメント投与を受けた冠動脈性心疾患(CHD)患者がサプリメントを摂取しなかった患者に比べて突然死のリスクが45%低かったことが確認されました;サプリメント摂取者は、非サプリメント摂取者に比較して全死因死亡のリスク率が20%低いことが判明しました(117)。全死亡率の大幅な減少を確認するまでに要したサプリメント投与期間はわずか3ヶ月でしたし、突然死における注目すべき減少を確認するまでに要したサプリメント投与期間は4ヶ月でした(118) 。

他のサプリメント投与試験では、急性心筋梗塞(MI)で病院に収容された患者に、魚油(1日当たりEPAプラスDHA 1.8グラム)、からし油(1日当たり2.9グラムのALA)または、プラセボが含まれたカプセルをランダムに投与しました (119)。1年後、非致死性MIを含む全心イベントがプラセボを投与されたグループに比較して魚油もしくは、からし油を投与されたグループにおいて著しく低かったことが判明しました。

日本において実施された「高脂血症に関する一次、二次予防大規模介入臨床試験(JELIS trial)」では、1日あたり1800ミリグラムのEPA投与の結果LDLの上昇値を伴った被検者の5年にわたる追跡調査期間に主要冠動脈イベント のリスクが減少したことを確認しました。この効果は主として冠動脈疾患の病歴を持つ患者に認められました (282)

心筋梗塞(MI )発症後の被検者を考慮した試験では、それぞれ、プラセボ、1日当たり400ミリグラムのDHA+EPA、1日当たり1.9グラムのALAもしくは、1日当たり400ミリグラムのDHA+EPA および、ALAを含むサプリメント添加マーガリンで40ヵ月間治療を受けた後の60~80才の男性の78%に主要心血管疾患リスク率に何らの差異も認められませんでした(283)。 この試験において使用されたDHA +EPAの摂取量は、二次予防のための推奨摂取量を下回るものでした。

他の二次予防試験 (284) では、イベント後最大12ヵ月を開始点として1日当たり600ミリグラムのDHA+EPAが使用されました。残念ながら研究は力不足で4年間におよぶ治療期間後何らの効果も立証することができませんでした。介入時期の遅れもまた、研究成果が無に帰した一因であった可能性があります。

急性心筋梗塞(MI)患者は、比較的魚摂取量の多いノルウェー地方においては、コーンオイルに比較して1日当たり3.5グラムのEPA + DHAサプリメント投与からなんらの追加的効果を得ることができませんでした(120)

オメガ-3脂肪酸サプリメントまたは、食物摂取の11件のランダム化比較試験の統合所見のメタ分析の結果では、オメガ-3脂肪酸摂取を増やすことで全死亡率、MIによる死亡率および、CHDを発症した患者の突然心臓死の発生率を著しく低下させることを示しました(121)

冠動脈アテローム性動脈硬化症を発症した59人の患者を対象としたランダム化比較試験では、オリーブ油に比較して1日当たり6グラムのEPA+DHAを供給する魚油サプリメントの2年間にわたる投与後全く効果が確認できませんでした(122)が、223人の患者を対象とした大規模試験では、3ヶ月間にわたる1日当たり3.3グラムのEPA+DHAおよび、追加の21ヶ月間にわたる1日当たり1.65グラムのサプリメント投与が、プラセボに対比して冠動脈アテローム性動脈硬化症の進行を結果的に食い止めたことを確認しました(123)

要約

冠動脈性心疾患(CHD)を発症している患者を対象としたランダム化比較試験の結果では、 オメガ-3脂肪酸DHA およびEPA を含む食物摂取とサプリメント投与が病気の進行と死亡に至る悪化を抑制する効果があることを示唆します。従って、異なる様々な専門家パネルが虚血性心疾患の患者にDHA および、EPAサプリメント投与を行うことを推奨しています。 

真性糖尿病

真性糖尿病患者において、心血管疾患は主要な死因となっています。高血中トリグリセリド濃度(1デシリットル当たり200ミリグラム以上)は、2型糖尿病の患者における共通の異常兆候です。

800人以上の糖尿病患者を含む18件のランダム化比較試験の結果を統合した検証では、魚油サプリメント投与が特に、高血中トリグリセリド濃度の患者における血清トリグリセリドを著しく低下させたことが判明しました(124)

2型糖尿病を発症した患者を対象とした18件のランダム化比較試験の結果を統合したメタ・アナリシスでは、プラセボ対比で血中トリグリセリド値を1デシリットル当たり31ミリグラム低減させたことが判明しましたが、血清コレステロールあるいは、空腹時グルコース濃度には影響しませんでした(125)

2型糖尿病を対象としたランダム化比較試験の最近のメタ・アナリシスでは、オメガ-3脂肪酸サプリメント投与が血清トリグリセリド濃度を25%低下させたことが判りました(126) 。

しかし、魚油サプリメント投与は、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール濃度を僅かに増加させます  (124, 126,127) 。

糖尿病における心血管疾患への魚油サプリメント投与の効果についての比較試験はほとんどありませんが、研究の開始時には心血管疾患もしくは、ガンを発症していなかった2型糖尿病と診断された 5,103人の女性を追跡調査したプロスペクティブ研究で、16年間にわたる追跡調査期間を通しての魚の大量摂取が冠動脈性心疾患(CHD)のリスクを低下させたことを証明しました(128)

従って、オメガ-3脂肪酸(EPAおよび、DHA)摂取の増加が、糖尿病患者、特に血清トリグリセリド濃度が上昇している患者にとって有効である可能性があります(129)

さらに、1日当たり3グラム未満の日々のEPA+DHA摂取が糖尿病患者における長期血糖コントロールに副作用があるという証拠はありません(124, 130)。 

炎症性疾患

リウマチ性関節炎

リウマチ性関節炎は、関節周囲の炎症を特徴とする慢性の自己免疫疾患です。臨床介入試験では、オメガ-3脂肪酸には抗炎症特性があり従って、炎症性疾患と自己免疫疾患に有効である可能性を示します。

リューマチ性関節炎患者を対象としたランダム化比較試験の3件のメタ・アナリシスでは、少なくとも12週間にわたる魚油サプリメント1日当たり2.7グラムのEPA+DHAの最小限投与によって圧痛関節数を著しく減らし疼痛強度と「朝のこわばり-モーニングスティッフネス」の継続時間を減少させたことを確認しました (125, 131, 132) 。

リウマチ性関節炎患者における抗炎症薬あるいは、副腎皮質ステロイドへの長鎖オメガ-3脂肪酸の効果を調査した7件の研究の内の6件では、関節炎患者において抗炎症医薬品の必要性が減少したことを示しました (125) 。

炎症性大腸炎

炎症性大腸炎は、消化管(結腸および、「小腸」)の炎症性疾患群です。

クローン病患者を対象とした魚油サプリメント投与についての2件のランダム化比較試験 では、効果は報告されませんでしたが(133, 134) 、1件のランダム化比較試験では1日当たり2.7グラムのオメガ-3脂肪酸EPA + DHAを投与されたクローン病患者が高い割合でプラセボ投与を受けた人々に比べて12ヵ月間寛解が持続したことが判明しました(135)

クローン病を発症した38人の子供(年齢5~16才)を対象としたランダム化比較試験では、従来の療法に加えてオメガ-3PUFAサプリメント投与(1日当たりEPA1.2グラムおよび、1日当たりDHA0.6グラム)が1年以内の再発率を大幅に軽減させたことを証明しました  (136) 。

潰瘍性大腸炎患者を対象としたEPA+DHAサプリメント投与(1日当たり4.2~5.4グラムを3~12ヶ月間)のランダム化比較試験では、体重増加、医薬品使用(副腎皮質ステロイド)の減少および、疾患活動性スコアを含む少なくとも1結果判定において著しい改善があったことが報告されました  (137, 138, 139) 。

対照的に、寛解期にある潰瘍性大腸炎患者の1日当たり5.1グラムのEPA+DHAサプリメント投与が2年間にわたる再発率を注目に値するほど修正することはありませんでした(140)

長鎖オメガ-3脂脂肪酸サプリメント投与が、潰瘍性大腸炎における何らかの治療上の有効性があるか否かを決定するためにはより一層の研究が必要です(141,285)。

喘息

長鎖オメガ-6脂肪酸、アラキドン酸から生成される炎症性エイコサノイド(複数) (「ロイコトリエン」)が気道閉塞を特徴とする気管の慢性疾患である喘息の病理において科学的伝達物質として重要な役割を果たすと考えられます(8)

オメガ-3脂肪酸サプリメント投与が喘息患者において炎症伝達物質の生成を減少させる可能性がある証拠があります(142,143) が、オメガ-3脂肪酸サプリメント投与が比較試験において喘息の臨床的重症度を減少させるという証拠には一貫性がありませんでした(144)

喘息疾患の成人および、小児を対象とする長鎖オメガ-3脂肪酸のランダム化比較試験の3件の検証では、肺機能テスト、喘息症状もしくは、医薬品の使用を含めて臨床的結果判定において一切一貫した効果を見出すことができませんでした(145, 146,147)

嚢胞性線維症

確定的な結論を下すもしくは、オメガ-3脂肪酸サプリメントの日常的な使用を推奨するには証拠不十分ですが、コクラン・コラボレーション(コクラン共同計画)による検証によれば、通常のオメガ-3サプリメントは、比較的に副作用も少なく嚢胞性線維症患者の治療に相当の効果がある可能性があります (286)。著者たちは、重要な治療効果の是非を決定し、疾病の重症度、投与量および、治療期間を判定するために大規模、長期、多施設ランダム化比較試験が必要であることを指摘しています。

免疫グロブリンA腎症

免疫グロブリンA(IgA)腎症は、腎臓のフィルタリングユニット(「糸球体」)における抗体IgAの沈積により発症する腎臓疾患です。進行性腎不全 (「腎性」) は、最終的には患者の15~40%に発症します(148) 。IgA沈積が炎症伝達物質の産生増加の原因となるので、オメガ-3脂肪酸サプリメント投与が潜在的に炎症反応を調整し、腎機能を守ると考えられます。

免疫グロブリンA腎症患者に対する魚油(1日当たりEPA1.8グラム+ DHA1.2 グラム)の2年間にわたるサプリメント投与におけるランダム化比較試験 では、腎機能の低下を著しく遅らせたことが判りました (149) 。これらの結果は平均6年間の追跡調査期間持続しましたが(150) 、魚油の高用量投与では改善は認められませんでした  (151) 。

対照的に、複数の研究では、免疫グロブリンA腎症患者においてオメガ-3PUFAサプリメント投与の明確な効果を見出すことに失敗しました(152, 153, 154, 155) 。魚油のランダム化比較試験の2件のメタ・アナリシスでは、免疫グロブリンA腎症患者全体における統計的に注目すべき効果は証明できませんでした(156, 157)

公表されているランダム化比較試験の結果が一貫性に欠けるため、魚油サプリメント投与が免疫グロブリンA腎症の進行を小児あるいは成人において防止できるか否かについて明確ではありません(125)

精神疾患

オメガ-3脂肪酸は神経細胞膜の重要な構成要素です。健全な精神衛生を維持していく中で必須のステップである神経細胞の相互通信を手助けします。特に長鎖オメガ-3脂肪酸ドコサヘキサエン酸、(DHA)は、シグナル伝達分子および、G-タンパク質結合受容体(287)、シナプス形成(288289)、神経分化(290)および、ドコサノイドなどの活性代謝産物産生(291)の 調節などの様々な神経細胞プロセスに関連しています。 

大欝病性障害および、双極性障害

様々な異なる国々の全域にわたる生態学的研究からのデータでは、高い魚介類の摂取量と大鬱病(158) および、心的状態における躁鬱の変化(「双極性障害」) (159) の全国的な低率が関連することを示唆します。

複数の小規模研究では、コントロールに比べて鬱病を発症した患者の血液(160, 161, 162) と脂肪(動物性脂肪)組織(163)におけるオメガ-3脂肪酸濃度がより低いことが確認されました。

オメガ-3脂肪酸摂取がどのように鬱病の発症に影響するかは知られていませんが、神経シグナリング経路の変調と多価不飽和脂肪酸から引き出された科学的伝達物質(「エイコサノイド」)がそのメカニズムの可能性として指摘されています(164) 。

鬱病における長鎖オメガ-3脂肪酸サプリメント投与についてのランダム化比較試験の結果はまちまちです。

鬱病で治療をうけている患者において既存の療法への魚油サプリメント(1日当たり8グラム)の追加は、同じ量のオリーブオイルを12週間追加した場合に比較して効果的ではありませんでした(165)。大鬱病性障害と診断された患者および、軽度から中程度の鬱病患者において4ヶ月間にわたる魚油サプリメント投与は標準的療法との関連を凌駕する何らの治療効果をもたらしませんでした(166, 167, 168) 。

しかし、大鬱病性障害と診断された中国人を対象とした小規模ランダム化比較試験では、1日当たり6.6グラムのエイコサペンタエン酸(EPA)+ドコサヘキサエン酸(DHA)サプリメント投与を8週間続けた結果プラセボ投与に比較して欝症状を改善しました(169)

さらに、小規模、ランダム化二重盲検法によるプラセボ比較試験では、大鬱病性障害の患者に8週間1日当たり1グラムのEPAを投与した結果抑鬱症状(p<0.12)の改善傾向を示しました (292)。

境界性人格障害と診断された30人の女性を対象とした別の小規模ランダム化比較試験では、8週間にわたって1日当たり1グラムのEPAにより無作為に治療を受けた30人の女性が無作為にプラセボでの治療を受けた10人に比較して欝症状が重篤でなかったことが判明しました (170) 。

大鬱病性障害と更年期を迎えつつある女性の最近の非盲検試験では、8週間超のDHA+EPA 1日2グラムの投与治療によって著しい奏功率(70%) と寛解率(45%)が確認されました(293)。 しかし、妊娠期間に1日当たり800ミリグラムのDHA強化魚油を投与された試験では、産後抑鬱症状治療に効果が認められませんでした(294)。もう1件別のランダム化、抑鬱症状を発症した高齢の女性(295)を対象とした二重盲検法によるプラセボ比較試験では、8週間超の1日当たりDHA+EPA2.5グラムの投与によって抑鬱症状と日常生活の精神的満足度(生活の質)において著しい改善が見られました。

さらに、研究の結果では、オメガ-3脂肪酸サプリメント投与が大鬱病性障害を発症した子供の治療において有効であることを示唆します(171) 。

双極性障害(「躁鬱病」)を発症した患者を対象に高用量のEPA(1日当たり6.2グラム)+DHA(1日当たり3.4グラム)の摂取効果を評価するランダム化比較試験では、EPA+DHAサプリメント投与を受けた人々が4ヶ月間にわたってオリーブオイルプラセボを投与された人々に比較して寛解の期間が著しく長かったことが立証されました(172) 。また、EPA+DHAサプリメントを摂取した患者がプラセボを摂取した患者に比較して欝症状が軽かったことが判明しました。

しかし、1件の研究では、4ヶ月間にわたる1日当たり6グラムのEPAを摂取した患者の双極性鬱病が緩和されませんでした(173)

EPAの少ない投与量は、双極性障害の治療においてより有効かもしれません:小規模研究では、6ヶ月間にわたって1日当たり1.5グラムもしくは、2グラムを摂取した患者の双極性障害に伴う欝症状がいくらか軽減されたことが確認されました(174)。12週にわたる、双極性障害を発症した患者を対象とした二重盲検法によるプラセボ比較試験では、1日当たり1グラムもしくは、2グラムのEPAを摂取した患者が欝症状の著しい改善を体験しましたが、プラセボグループに比較して何れのグループにおいても躁の測定量は大幅には異なりませんでした(175) 。

複数のより最近のランダム化比較試験のメタ・アナリシスでは、オメガ-3多価不飽和脂肪酸サプリメント投与が大鬱病性障害と双極性抑鬱障害の治療に有効であると結論付けました(176, 177)。 しかし、コクラン・レビュー(296)によって双極性抑鬱障害でのn-3 PUFAの効果が認められた研究件数はわずかに1件のみでした。最新のメタ・アナリシスは、抑鬱病と診断された患者においてはn-3 PUFA の投与は効果的であったと結論付けています。

長鎖オメガ-3脂肪酸サプリメント投与が大欝病性障害と双極性障害の治療への効力があるか否かを決定するためには長期の大規模ランダム化比較試験が必要です。

 統合失調症

対照群を設定しない一般サプリメント投与研究(182) の結果と共に、限られた数の精神分裂症患者の赤血球(179, 180) と脳(181)内の減少したオメガ-3脂肪酸濃度の所見は、精神分裂症のための従来の抗精神病療法への追加治療法として長鎖オメガ-3脂肪酸の使用への関心が高まりました。

精神分裂症患者を対象とした標準抗精神病療法への付加的方法としてオメガ-3脂肪酸エイコサペンタエン酸(EPA)を使用したランダム化比較試験の結果は多少矛盾していました:1件の試験では、従来の抗精神病治療への1日当たり3グラムのEPAの12週間継続付加は兆候を改善し、随意運動(「運動障害」)(183) のコントロール障害を抑制する一方、同様な12週間の試験では、1日当たり2グラムのEPA投与が運動障害を伴う精神分裂症患者の役に立たなかったことが確認されました(184)。別の試験では、16週間にわたる1日当たり3グラムのEPAサプリメント投与が兆候、心的状態あるいは、認識力の改善においてプラセボ投与に比較して何らの違いも示しませんでした(185)

閾値下の精神病を発症している 青少年および、若年成人 (13~25才)を対象とした最近のランダム化、二重盲検法によるプラセボ比較試験では、40週のモニタリング期間で追跡調査された12週間超の1日1.2グラムのオメガ-3PUFAの投与によって著しく精神障害初期症状への進行率の低下を示しました(297)。また、オメガ-3サプリメントを投与されたグループについてプラセボに比較して統合失調症の陽性症状(p = .01)、陰性症状(p = .02)、全身症状(p = .01)が軽減し、機能改善(p = .002)が確認されました。これらの結果は、精神障害初期症状の発症リスクを抱えた若年成人に対するオメガ-3PUFA投与による潜在的な予防戦略の可能性を示唆します。

限定的な証拠は、EPAサプリメント投与が統合失調症患者における抗精神病療法に対する有効な追加療法である可能性を示唆しますが、臨床的に関連した結果に的を絞ったより大規模の長期研究が必要です (186298) 。

注意欠陥/多動性障害(ADHD)

注意血管障害/他動性障害(ADHD)を発症した子供は、体内の特定の必須脂肪酸(EPAおよび、DHAを含む)濃度が低下している可能性があります(187) 。100人の男児の臨床研究では、オメガ-3脂肪酸濃度の低い子供たちは学習と行動上の問題(かんしゃくや睡眠障害)があることを示しました(188)

1件の臨床研究では、ADHDを発症した117人の子供たちを対象にオメガ-3とオメガ-6脂肪酸サプリメント投与を行いました。この研究では、3ヵ月の治療期間にわたってリーディング、スペリングおよび、行動において改善が認められました(189)。別の臨床研究では、オメガ-3脂肪酸がADHDを発症した女子学童の身体的攻撃性を緩和することに役立つことを確認しましたが男子については当てはまりませんでした(190) 。

最近のADHDにおける脂肪酸サプリメント投与の系統的な検証では、非盲検試験で指摘された成功にもかかわらず、ランダム化比較試験からの結果は同様の効果を立証できなかったとの結論に至りました(299)

最新の系統的検証では、自閉症スペクトラム障害(ASD) (300)治療のためのオメガ-3脂肪酸投与の効力と安全性を査定しました。研究者は、対照群を設定しない一般試験からではデータは限られており調査データがわずか1件のランダム化比較試験からもたらされたものだけであることを指摘しました。結果として、ASDの治療においてオメガ-3脂肪酸が安全かつ有効であるかを判定することは不可能です。

ADHDを発症した児童の最近の交叉研究では、注意力障害および、神経発達障害を発症している患者の亜母集団が、3ヵ月におよぶオメガ-3(558ミリグラムのEPA+ 174 ミリグラムのDHA)の二重盲検交叉投与試験実施後ADHD症状の25%減少と機能障害スコアの改善を示しました;また、6ヵ月後オメガ-3脂肪酸を投与された児童の74%についてADHDの症状軽減が認められました (301)

対照的に、7週間にわたる短鎖脂肪酸(リノール酸480ミリグラムとアルファリノール酸120ミリグラム)サプリメント投与では、プラセボ投与に比較してADHD を発症している児童において何らの差異も認められませんでした(299)。 しかし、また最近の研究で、EPA サプリメント単独の投与(1日当たり0.5グラム)によって反抗障害と過活動障害度の低い児童の亜母集団におけるADHD症状の改善を示しました(302)

摂食障害

臨床研究では、摂食障害「神経性無食欲症」の男女について、多価不飽和脂肪酸(ALAとGLAを含む)の濃度が最適レベルを下回っていることを示唆します(191) 。

必須脂肪酸不足と関連した合併症を防止するために、何人かの専門家は、神経性無食欲症のための治療計画にオメガ-6脂肪酸を含む魚やモツなどのPUFA含有量が豊かな食物を取り入れるよう推奨しています。  

骨粗しょう症

複数の研究では、長鎖オメガ-3脂肪酸エイコサペンタエン酸(EPA)が人体内のカルシウム濃度を高めかつ、カルシウムを骨格に蓄積して骨の強度を改善することに役立つ可能性のあることを示唆します。

また、複数の研究では、特定の必須脂肪酸(特に、EPAおよび、長鎖オメガ-6脂肪酸ガンマリノール酸、GLA)が欠乏状態にある人々が正常な濃度の人々に比べて骨損失を発症しがちであることを示唆します(193) 。

骨粗しょう症を発症した65人を超す女性の研究では、EPAおよび、GLAサプリメントを投与された女性たちが、プラセボ投与対象者に比べて3年間にわたり著しく骨損失が少なかったことを確認しました  (194) 。また、これらの女性の大部分でそれらの期間に骨密度の増加が確認されました。

AA とALAの食物摂取と高齢者の股関節骨折率の減少間の正相関もまた、最近になって報告されています。骨健康に関連するPUFA摂取による効果は、年令と性別により異なる可能性があります。

体重減少

太り過ぎの多くの人々は、血糖コントロール不良、糖尿病および、高血中コレステロール濃度に苦しむことになります。

臨床研究では、運動を含む減量プログラムを続けている太り過ぎの人々は、オメガ-3脂肪酸(鮭、鯖および、鰊などの)を豊富に含む魚がそれらの人々の低脂肪食にとって主要な給源である場合、自らの血糖値とコレステロール濃度の望ましいコントロールを達成する傾向にあります(195)

その他の疾患

さらなる研究が必要な一方、予備的な証拠が、オメガ-3脂肪酸が幾つかの感染を防ぎ、日焼け(196) 、気腫、緑内障、生理痛(197)、片頭痛、多発性硬化症(198)、狼瘡、ライム病、パニック発作、妊娠高血圧腎症、早期産  (199) 、乾癬(200) 、ストレスおよび、潰瘍(201) を含む多くの追加疾患の治療に役立つ可能性のあることを示唆します。