以下に留意ください:
微量栄養素の高用量投与による如何なる食事療法あるいは、薬物療法も人体自身の制御機構を抑制してしまう可能性があります。従って、微量栄養素療法は潜在的な副作用と毒性に関連性があるかも知れません。高用量の微量栄養素の投与は医師の指示に従って行われなければなりません。
ランダム化比較試験のメタ・アナリシスの結果では、心臓発作(「心筋梗塞」)が疑われた直後処置されたマグネシウム注入静脈注射(IV)が、死亡のリスクを減らすことができたことを示しました。メタ・アナリシスに含まれた最も有力な研究で2,316人の患者を対象としたプラシーボ比較試験では、心筋梗塞と疑われた症状が確認された24時間以内に硫酸マグネシウム静脈注射を投与されたグループの死亡率(プラセボグループにおける10.3%に対して7.8%)が著しい減少を示したことが確認されました(18)。治療後1年から5年間の追跡調査で、心血管疾患による死亡率がマグネシウム治療を受けたグループで21%低下したことが明らかになりました (19) 。
しかし、58,000人以上の患者が参加した大規模プラセボ比較試験では、心筋梗塞の疑いが診断されてから24時間以内に硫酸マグネシウム静脈注射で治療を受けた患者について5週間死亡率に特筆すべき減少が認められなかったことが判りました(20)。急性MIと診断された173,000人以上の患者における米国での治療についての調査では、MIが診断された後最初の24時間にマグネシウムの静脈注射を投与されたのはわずかに5%であり、マグネシウムによる治療を受けなかったグループに比較してマグネシウム静脈注射による治療を受けたグループの死亡率が高かったことが判明しました(21) 。
最近になって、73,363人の患者を対象とした26件の臨床試験の検証では、マグネシウムの静脈注射は心筋梗塞直後の死亡率を減少させないと考えられるので、治療法として使うべきではないという結論が下されました(22)。
従って、急性心筋梗塞療法としての硫酸マグネシウムの静脈内投与は引続き賛否両論の議論の対象となるでしょう。
研究では、マグネシウムによる治療が心血管疾患を発症した患者の血管内皮機能を改善する可能性を示します。
安定心臓動脈疾患(冠動脈性心疾患)を発症している50人の男性と女性を対象としたランダム化比較試験では、6ヶ月にわたる経口マグネシウムサプリメント投与(1日当たり730ミリグラム)がプラセボ投与グループに比較して血流依存性血管拡張症を結果的に12%改善したことが判明しました (23) 。また、プラセボに比較してマグネシウムサプリメント投与は、運動ストレステスト中の運動耐性を増加させました。すでに低用量のアスピリン(血液凝固抑制剤)を投与されていた虚血性心疾患の42人の患者を対象とした別の研究において、3ヶ月間のマグネシウムサプリメント投与(1日当たり800~1,200ミリグラム)によって血栓(「血栓症」)の形成を平均35%減少させたことを示しました(24) 。
さらに、看護師の健康研究に参加した657人の女性を対象とした研究では、食物マグネシウム摂取の増加が内皮機能不全のマーカー血中濃度の減少につながったことが報告されました (25) 。
生体外の研究では、低マグネシウム濃度が内皮の細胞分裂(「増殖」)の抑制とつながることを示しました(26)。予備的ではありますが、これらの複数の研究では、心血管疾患を発症した患者における内皮機能を高める効果がある可能性を示唆します。
異常高血圧(「高血圧症」)を治療するためにマグネシウムサプリメントを使用する介入研究からの結果は、矛盾しています(4)。
一般試験において、サイアザイド利尿剤を処方された高血圧の患者がマグネシウムサプリメントを投与時に血圧の減少を体験したのに対して、ほとんどのランダム化比較試験ではマグネシウムサプリメント投与による血圧降下効果を是認していません (3)。
2件の検証では、経口マグネシウム投与が高血圧患者にとって何らかの治療上の効果をもたらすか否かを判定するため、十分に企画された長期比較臨床試験が必要であると結論付けました(12, 13)。
マグネシウムの静注は医師によって必要とされる場合「高血圧性クリーゼ」において高血圧を降下させるために使用されます。
何年もの間、高用量硫酸マグネシウム静脈注射は、妊娠後期の妊娠高血圧腎症および、子癇との関連において発症する恐れのある発作(痙攣)を防止するための治療選択肢として使用されてきました(14, 15) 。マグネシウムは、脳への血流を増加させて、脳(「大脳」)内の血管収縮(「痙攣」)を軽減すると考えられています(16, 17)。
マグネシウムは、骨塩の約1%を占めていて、骨(コラーゲン)マトリックスと骨塩代謝の双方に影響することが知られています。骨塩のマグネシウム含有量が減少すると、骨結晶はより大きく、より過敏になります。
幾つかの研究では、非骨粗しょう症コントロールに比べて骨粗しょう症の女性の骨中のマグネシウム含有量は低く骨結晶がより大きいことが判明しました (31) 。不十分な血清マグネシウム濃度は、結果として低血清カルシウム濃度ビタミンDの幾つかの効果への耐性を生じることが知られており、それらの全てが骨損失の増加につながる可能性があります。
900人を超える高齢の男性と女性を対象とした研究では、食物マグネシウムの大量の摂取は、男性と女性の双方において股関節での骨塩密度(BMD)の増加に関連することが確認されました。しかし、マグネシウムとカリウムが多くの同じ食物内に存在するので、食物マグネシウム効果のみを切離すことができませんでした(32) 。
骨塩密度についてのマグネシウムサプリメント投与の効果もしくは、ヒトにおける骨粗しょう症に取り組んだ研究はほんの僅かです。骨粗しょう症に罹患した閉経後の女性の小集団において、最初の6ヶ月間に1日当たり750ミリグラムのマグネシウムサプリメント投与を受けその後引続き18ヶ月の追加期間に1日当たり250ミリグラムの投与を受けた女性の手首での骨塩密度(BMD)増加が1年後認められましたが、サプリメント投与の2年後は更なる増加は認められませんでした(33)。
エストロゲン補充療法を受け更に総合ビタミン剤を摂取していた閉経後の女性を対象とした研究では、1日当たり500ミリグラムの追加マグネシウムと1日当たり600ミリグラムのカルシウムサプリメント投与によって、エストロゲン補充療法のみを受けていた閉経後の女性に比較して踵でのBMDの増加が確認されました(34)。
現在、マグネシウム摂取を増加することがカルシウムと骨代謝に影響することから骨粗しょう症の予防と治療におけるその役割が重視されており、より多くの研究成果が期待されています。
マグネシウムの枯渇は、一般的に1型と2型真性糖尿病と関連します:糖尿病の25%から38%においてマグネシウム(「低マグネシウム血症」)血中濃度を減少したことが確認されました(27) 。枯渇の1つの原因は、管理の行き届いていない糖尿病に伴う尿排出グルコースの増加に起因する尿中への排泄マグネシウムの増加だと考えられます。マグネシウム枯渇は、糖尿病においてすでに減少傾向にあるインスリンへの反応(「グルコース耐性」)を悪化させる予兆であり、糖尿病患者における血糖コントロールに悪影響を与える恐れがあります。
1件の研究では、食物マグネシウムサプリメント(1日当たり400ミリグラム)投与が高齢患者における耐糖能を改善することが報告されています(28)。最近になって、2型糖尿病と低マグネシウム血症を発症した63人の患者を対象としたランダム化比較試験では、16週間にわたって経口塩化マグネシウム液剤(1日当たり2.5グラム)を摂取した患者がプラセボを摂取した患者に比較してインスリン感受性とグルコース調節度が改善されたことを示しました(29)。
9件のランダム化比較試験のメタ・アナリシスでは、経口マグネシウムサプリメント投与が、糖尿病患者における空腹時血漿グルコース濃度を低下させる可能性を示唆します(30)。
矛盾する報告内容のため、現在のところマグネシウムサプリメント投与が2型糖尿病患者において何らかの治療上の効果があるか否かについては不明瞭です。しかし、既存のマグネシウム欠乏症を是正すれば、糖尿病患者におけるグルコース代謝とインスリン感受性を改善できる可能性があります。
糖尿病にとって、マグネシウムサプリメント投与の効果があるか否かを判定するための十分管理の行き届いた大規模研究が必要とされます。
喘息患者のマグネシウム血清あるいは、赤血球濃度が急性の喘息性発作の間でさえ非喘息の人々に比較して低いことが確認されていません。複数の臨床試験では、急性の喘息性発作に対するマグネシウム静脈注射の効果を調査しました。
救急処置室での初期治療に反応しなかった38人の成人を対象とした1件のランダム化比較試験が、プラセボに比較して硫酸マグネシウムの静脈注射により入院の可能性を減少させました(39)。
しかし、48人の成人を対象とした別の比較試験では、硫酸マグネシウムの静脈注射が急性喘息発作を経験している患者の肺機能を改善しなかったことを報告しました (40) 。
7件のランダム化比較試験(成人5と子供2)の検証では、重篤かつ急性喘息を発症した患者において硫酸マグネシウムが有効であると結論付けました(41) 。さらに、重篤な喘息を発症している182人の子供を対象とした5件のランダム化プラセボ比較試験のメタ・アナリシスでは、マグネシウムの静脈注射が入院の必要性を71%減少させたことが確認されました(42) 。
現在、公表されている証拠では、マグネシウムの静脈注射が重篤かつ急性喘息の効力のある治療法であることを示しています;経口マグネシウム投与は、慢性喘息の管理において有効性は確認されていません(43, 44, 45) 。
296人の患者を対象とした6件のランダム化比較試験の検証で、ベータ2作用薬と共に吸入されたマグネシウムが急性喘息を発症した患者の肺機能を改善する可能性があると結論付けていますが、噴霧器による喘息治療のためのマグネシウム吸入法については継続調査が必要です (46) 。
頻発する片頭痛に苦しむ患者は、片頭痛を経験したことのない人々に比較して細胞内のマグネシウム濃度が低いことが判っています(35) 。マグネシウムサプリメントが片頭痛の頻度と深刻度を軽減させるに役立つという仮説により、経口マグネシウムサプリメント投与が片頭痛を発症した患者の細胞内マグネシウム濃度を増加させるための方法として提言されてきました。
2件のランダム化比較試験では、1日当たり600ミリグラムのマグネシウムのサプリメント投与後片頭痛頻度の緩やかな減少を示しました(35, 36)。
しかし、別のプラセボ比較研究では、1日当たり485ミリグラムのマグネシウム投与が片頭痛の頻度を減少させなかったことが判りました(37)。
最近になって、頻繁に片頭痛を発症する86人の子供を対象とした、プラセボ比較試験では、経口マグネシウム投与(1日当たり体重1キログラムにつき9ミリグラム)で16週間にわたる介入期間中片頭痛の頻度を減少させたことが判明しました(38)。これらの片頭痛試験において、重大な副作用は認められませんでしたが、調査者はマグネシウムサプリメント投与を受けている患者の約19%~40%が下痢および、胃(胃)の不快感などの軽度の副作用が認められたと報告しました。
流産の前歴のある女性と同様、不妊症の女性を対象とした小規模臨床研究では、マグネシウムの低濃度が生殖機能を阻害し、流産のリスクを増大させている可能性があることを指摘しました。当該研究の著者は、特に流産の前歴のある女性における不妊症の治療の一方法としてマグネシウムとセレニウムを含むことを考慮すべきであることを提言しています(49) 。
マグネシウムの重要性を評価するために、この分野のより一層の研究が必要です。
科学的証拠と臨床経験は、マグネシウムサプリメントが、PMS、特に腫脹、不眠症、下肢のむくみ、体重増加および、乳房の圧痛に関連した兆候の治療に役立つ可能性を示唆します(50)。
予備的な情報は、マグネシウムが情緒不安定を緩和するためにも役立つ可能性を指摘しています (51) 。
一部の専門家は、注意欠陥/他動性障害(ADHD)を発症している子供たちの状態は、興奮性、集中力の持続時間の低下および、精神錯乱など軽度のマグネシウム欠乏症の影響の表れだとしています。
ADHDを発症していると思われる116人の子供を対象にした1つの臨床研究では、95%にマグネシウム欠乏症の兆候を示しました(47)。
個別の臨床研究では、ADHDを発症した75人のマグネシウム欠乏症の子供たちは、標準の治療または、6ヶ月間の標準の治療に加えてマグネシウムサプリメントを摂取するため無作為に割当てられました(48)。マグネシウムの投与を受けたグループは、行動において著しく改善が認められたのに対して、マグネシウムなしで標準の治療のみを受けたグループの子供たちは行動がより悪化したことが確認されました。
これらの結果は、マグネシウムサプリメント投与もしくは、少なくとも食物に含まれる大量のマグネシウムがADHDを発症した子供たちにとっての治療手段として有効である可能性を示唆します。